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オライリーの高さんからもらったオライリーのオライリーが書いたWTF経済を読んでいるのだがすさまじくおもしろい。
現在550ページ(ちゃんと参考文献と索引が出ているので、本文は490ページくらい)のうち1/5くらい読んだところだが、一度メモ。
毀誉褒貶があるウーバー(とリフト)を取り上げているところで、目からうろこだった点がある。
ラッダイト運動とも関係するわけだが、おれ自身にそういう視点がそれほどなかった、あるいは気にしていなかったことだ。
何か産業に対して革新的なことが起きたりビジネスモデルがやってくると、それまでの産業あるいはその産業に従事している人間にとってネガティブインパクトが起きる。
通常、経営側にとっては一時的には導入コストがかかるが、期待通りの効能があるのであれば必然的にゲインの増大となるが労働側にとっては端的には失業だったり職業そのものの消失だったりそれまで不要だった新たな職責の到来だったりする。
だが、革新が提供するのは機能ではなく、質の転換こそが本質だ。
ウーバーの場合であれば、タクシー会社に雇用されている場合、勤務時間は仮に客が拾えなくてもタクシーの中にいなければならない。労働者は時間によって給料は保証されているが、それは会社が存続していることが前提となり、現実に全運転手が待機状態であればタクシーのランニングコスト、保有コスト、労働者の人件費だけが経営にかかってきて早晩倒産することになり、労働者は失業する。
ウーバー(実際のモデルはリフトで、ウーバーはハイヤーから始まっているので異なるらしいが)の技術的革新の中核はスマホを持った乗客予備軍からのオンデマンド配車システムであり、運転手はオンデマンドで労働することになる。ビジーなら無視可能(もちろん金は手に入らない)となる。オンデマンドということは、待機時間は事実上はゼロで、離婚訴訟のための浮気調査をしていても全然良いことになる。
一方運転手が供給過多となると、運転による収入は限りなくゼロに近づく。それによって、離脱する者が多数出てくれば逆に供給よりも需要が増えるので仕事が多くなるか、あるいは価格を上昇させられるので、収入は増える(この面を見過ごしていた)。
もちろんそれには頭が良い経営者と頭が良い労働者と頭が良い政府が必要でもある。革新によりビジネスモデルが変わったのだから、それに合わせた経営と労働と規制が必要となるからだ。
それを敷衍していくと、大量な労働者の確保を前提とした企業というのはほとんど不要となるのではないだろうか。
最終的には失業状態を前提とした政府によるセーフティネットの構築(資本再分配だが、夜警国家でも福祉国家でもない保険国家とでも呼ぶべきものだ)と、複数種類のオンデマンドビジネスを自在に行き来できる労働者と、極小数のプラットフォーマーとそれよりははるかに多いがあまり安定することはない労働アプリケーション企業、それらが生まれるために必要な資本市場(現在よりはるかに短期的な企業が多くなるために安定的なベンチマークを作るのは難しくなるから、インデックスファンド的な株式市場ではなくなるのではなかろうか)といった社会になるのが筋道に見える。(が、この中で一番頭が悪く振舞ってすべてをだめにしそうなのが政府だから、どうなるかはわからないが、未来はわからないからおもしろいのでそれで良いのだ)
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