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確か5/29だと思うが、ドンカルロスから帰ってきたら(かどうか怪しいので29日かどうかわからないわけだが)子供がこれから配信があるから一緒にスリルミーを観ようと言い出したので一緒に観た。
ミュージカルとはいえ、あまり歌らしい歌がなく(おれにとって「ミュージカル」という単語から最初に出てくるのはジャックドゥミーだったりスタンリードーネンだったり遡ればレハールだったりするので歌だけではなく踊りも重要なのだ)、何やら男が出て来て告白調で喋り出して他に一人しかメインキャストがいないところでアンクル・トムみたいだなぁと感じて、これは韓国ミュージカルか?(いや、実際にはフランケンシュタインとかも観ているから、グランドミュージカルがあるのはわかっているのだけど)と聞いたら、よくわからないけど、アメリカの実際にあった事件をベースにしているらしいとか言われる。
殺人罪で捕まった男を、模範囚でもあることだし、刑務所の予算の関係で早期リリースプログラムを適用してさっさと社会という黒暗森林へ追い出そうと、再尋問が行われるところから物語の幕があく。
男はかって、友人(こちらが実行犯)と共謀して子供を殺したのだった。
問題は、なぜ殺したのかにある。
要は黒暗森林でふたたび狩人として振舞うような危険な人物なのかどうか、が尋問者にとっての焦点となる。
男が回想を始める。
友人と男はともに大学院で法律を学んでいて弁護士としての将来が約束された秀才だ。
友人はニーチェの超人思想にかぶれている。そのため、自分が他の何者でもなく世の凡人どもとは一線を画す自分自身であるという確たる証拠を得ようと次々と犯罪に手を染めている。(実は、ここまで見てうんざりしたのは否めない。19世紀の大学生や現代の中学2年生ではあるまいし何をほざいているのやら)
男が友人の部屋で待っていると友人が帰って来る。なんでお前がここにいるの? いや、弟に入れてもらったんだよ。
で、泥棒から火付けにいたって、いよいよ殺人の計画を練り始める。
男は、止めようといろいろ説得する。だが、惚れた弱みがある。
友人は、確実に仕留められて、社会に対してそれほど悪影響がないなどと自分勝手な理屈を振り回して子供をターゲットとする。(お前はサカキバラか(というかあれは高校生だったな)とつっこみを入れたくなるよなぁ。大学院で学んでいる年齢なのだ)。
ただ、なるほど、よくいう「殺す相手は誰でも良かった」が実際には誰でもではなく明白に女性や子供をターゲットにする思考の説明としては納得がいった。そもそも「殺す相手は誰でも良かった」は真実なのだが、言葉が不足している。「殺す相手は誰でも良いが、確実に仕留められる相手でなければならない」なのだな。
そりゃそうか。目的は殺しにあるのだから、それを実現できなければ意味がない。
殺し HDリマスターー版(続・死ぬまでにこれは観ろ!) [DVD](フランチェスコ・ルイウ)
パゾリーニと同じくおれも殺しは好きだが、好きなのはベルトルッチの殺しだ。
無事、殺しは成立する。
が、友人が考えた完全犯罪のシナリオは男のミス(同様なミスをすでに男は前にやっているので、観ているこちらは男の抜け作っぷりに呆れ果てる)によって破壊される。
というか、完全犯罪が成立していないからこそ、男は収監されているのだから当然だ。
かくして物語は、なぜ完全犯罪が成立しなかったのか(直接の原因は男のミスにあるにしても)、そして、なぜ友人は犯罪を重ねることに執着するのか、という深部に入り込む。
なかなかおもしろかった。
(ただ、ミュージカルとしておもしろかったか? と聞かれると首を傾げざるを得ない。その一方で、実に不愉快千万な物語であるから、一方的な独白調の一人芝居とかだったら気分悪くなるだろうから、歌と音楽があるほうが良くもある)
実に奇妙な体験だった。
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