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東劇でメトライブビューイングのドンカルロス。
エボリ公女は当然のようにガランチャだろうと思ったら、ジェイミー・バートンという歌手で顔はかわいいがガランチャのようなシュッとしたエボリではなくちょっとがっかりした。
それはそれとしてポレンザーニのドンカルロスとそもそもはヨンチョバ(と表記するのが好きなのだがヨンチェバだな)が観たかったわけでそちらはOK。驚いたのは宗教裁判長のジョンレリエで眼光鋭く(眼が見えないはずだが)こんなおっかない宗教裁判長は初めてだ。素晴らしい。
全幕版なのでフォンテヌブローの森から始まる。おれはこういう静かで孤独な場所が好きだとドンカルロスが歌う。ポレンザーニは実に良い。そしていきなり登場した外国人におびえる小姓とエリザベートをなだめすかして、渋る小姓を追い出したあとはエリザベートにあなたのフィアンセの肖像画だとロケットを渡し、エリザベートが驚くのを楽しそうに眺めるというのをやった後に、絶望に追いやる小姓の皇后陛下万歳に続く。それにしても、忖度とか空気読むは日本独自のものでもなんでもなく、エリザベートは本心とは裏腹に空気を読んでフィリップ2世との結婚を承諾することになり、2幕へ続く。
例によってメトライブビューイングの幕間インタビューはおもしろい。特にポレンザーニがまったく空気を読まずにネタバレをしまくるのはいつものことながら痛快で、最悪のタイミングで剣を抜くとか言い出してインタビュアーが唖然とするところとかおもしろい(どうみてもシナリオ抜きにその場でやっているとしか思えないだけにおもしろさは抜群)。
ロドリーグはデュピュイという人(名前からフランス人なのだろう。ポレンザーニと違ってフランス語が怪しくない)。メトだけにコスプレ演出なのだが、ロドリーグだけはおそらくマクビカーの趣味ではないかと疑わざるを得ないモヒカン、上半身をはだけた皮ジャケットで登場(と、子供が評する)。なかなか良いロドリーグだが、それにしても高田智宏は良かったなとか観ていて思い出した。
デュピュイの幕間インタビューでは、ポレンザーニが突然出てきて「さっきはよくも俺の剣を没収したな!」と絡んでみせる。その後で、自作の子供時代からおれはカルロスとは仲良しさという歌をピアノを弾きながら歌うビデオを見せる。これはおもしろい。
コスプレ演出という点ではエボリは眼帯をつけて出てきて呪わしき美貌の頂点でかなぐり捨てる。
宗教裁判では首を少しずつ絞める最悪の絞首台が登場。
最後、ポレンザーニは皇帝の衛兵に突き殺される生な演出(これまた幕間でポレンザーニがちゃんばらの練習の後に出てきて、「腹を刺された!」とか言い出して殺される演出だとネタバレさせてしまって笑いを誘う。
また、あの世へドンカルロスを導くのは先帝ではなくロドリーグで、これほどドンカルロスの死をきっちり示す演出は珍しいのではないか。
指揮はパトリックフラーという相当な若手なのだが、実は代役で本来はヤニック・ネゼ=セガンという人だったらしい(というかこの人が今のメトの監督なのだった)。幕間インタビューではネゼセガンのほうが出てきて意図をいろいろ説明するのだが、これもおもしろい。
まずフランス語版のほうがイタリア語版よりも歌がだらだらめりはりなく続く。とはいえ、フランス語に堪能なヴェルディなので抑揚はまったく正しく、掴みどころのない内容にふさわしいと力説する。また、ドンカルロスの細部の旋律の美しさについて、6人のフランドル人の歌を例にして褒め称える。
どう見ても、この指揮者がドンカルロスを大好きなのは間違いなさそうで、(ヨンチョバ以外の歌手を集めてどういう音楽をやるかを説明しているリモートミーティングの様子を幕間で流していたが、これもおもしろい)自分で振れなくてさぞ残念だったろうと思った。というか、フラーもネゼセガンもやたらと若いので、レヴァイン追放ついでにゲレブが指揮者陣の若返りを図ったのかな? とか思った。
と、幕間インタビューがやたらと充実していておもしろいのだが、舞台そのものもヨンチェバが想像通りの良いエリザベートで楽しめた。
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