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シアターオーブでレント25周年記念公演。
前回は2016年のクリスマスイブだったから5年半ぶりだ。
自分でも意外なほど舞台の記憶がないのだが(それは映画のほうはDVDで複数回観ているからだからだろう)、記録を見ると同じところで同じように感じていておもしろいというか進歩がないというか、何度観ても楽しいというか、おもしろい。
今回の演者では(と書いているのだが、前回の公演の記憶ではなくどうしても映画のほうとの比較になる)、とにかくベニーが若くて格好もチャラいのが印象的(なんか映画ではレモンを売りそうな格好で、ボエームからビジネスへの転身というベニーの位置づけが明らかではあるが、チャラいほうがどっちつかずの立場に合っていると思う)。歌はコリンズのヒックスという人がでかくて声も太くて本物のコリンズかくあるべしみたいで気に入った。ロジャーやミミも好き。が、2幕冒頭のシーズンズオブラブでソウル風に歌うホームレス役の小柄な女声歌手がやたらと印象的だった。
前回と舞台構成は同じだと思うのだが(舞台下手奥がオーケストラ(ではないが)ピットとか、その上を舞台上とは別の場所を示すとか)バンドの位置以外は驚くほど記憶がない。
ワンソンググローリーは舞台だと切実さが名曲に聴こえる。やはり生身の人間が目の前で歌って演じる分だけ、いかにもいつ死ぬか(当時のエイズは死病も良いところだったからだが)びびりながらも生きている切実さみたいなものが強く感じられるからだろう。
コリンズはコリーネと違って最初にコートを失う。
アウトトゥナイトは高いところで歌い出して、そのまま私を外へ連れてってとマークとロジャーの部屋の扉を開いてロジャーへ詰め寄る動きが、曲のスピード感とマッチしていてすごく好き。そのまま畳みかけるようにI should tell youの曲(アナザーデイかな)になるのだが、どうしてもI should tell youが「愛してる」に空耳するのは変わらない。とにかく、曲としても演出としても舞台としてもアウトトゥナイトからアナザーデイの流れは本当に見事なものだ。この部分は、ヘロイン中毒中のミミ(注射針からの感染でAIDSだろう)の生き急ぎ願望とヘロイン中毒は克服したが恋人を自殺(AIDSを悲観してだろう)で失って本人もAIDSのロジャーの他人を巻き添えにしたくなさとの相克が速いパートとスローバラードパートを繰り返す。見事だ。
演出では、特に高いところで(バーダンスの表現だろうが)ミミが青い髪をぐりんぐりん振り回すとラメがキラキラするところが抜群に美しい。ミミはとにかく青なのだな。
モーリンのオバーザムーンは今となっては一番古臭くいささか辛い(時代的にはローリーアンダーソンあたりのやたらと先進的なメディアアートっぽいポエットリーディングを基調とした曲だということはわかる)のだが、妙に大柄で説得力がある歌手が演じているので、なるほど確かにこれはモーリンで、恋人をプーキーと呼ぶのだなと思わせておもしろかった(タンゴモーリンでプーキーと呼ぶだろう? 呼ばれたことないわの後のモーリンからの電話でジョアンがプーキーと呼ばれるところはおもしろい)。
ミミとロジャーがヘロイン中毒とAIDSなのに対して、モーリン、マーク、ジョアンは三角関係とメディアアート(というロジャーのロックンロールに比べるとちょっとインテリ)と映画とIVYリーグ卒業で親も上流(フランス大使の家でタンゴを習ったというようなセリフもある)の弁護士という比較的裕福なグループになっている。
もう1つのグループが、エンジェル(クイァの女王でAIDSなのだが登場時はストリートドラマーというかミュージシャンで女王とは思わせないが、その後ロジャーとマークの部屋に来て爆発するToday4Uは名曲だな)とコリンズ(ハッカー――らしいところはほとんど見せないが、最後にATMをハックして金をちょろまかしてくる――はともかくやはりAIDS)のゲイカップルで、2番目のグループ以外はAIDSが共通項になっている。
2幕はごちゃごちゃした末に秋風が吹くころにエンジェルが死んで散り散りになり、しかしミミが死にかけたホームレス化したことでみんなが集まってくる(と、本家のラボエームと同じようになる)。
微妙なところで拍手する人がいないのは、どうも訓練されたレント好きが集まったようだ(多分、最初のうちは間違えて拍手する人がいただろうなぁと思う。ちょっとスクリアビンの法悦の詩みたいだ)。
カーテンコールでエンジェルが下手から飛び出してきて加わる。
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