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ピッコマでちまちま無料範囲を読んでいたアラクニドだが面倒になってKindleマンガで買って全巻読んでしまった。
これはとんでもなくおもしろかった。
フリーランスの集合のような(だからお互いに殺し合いや協定をばんばんやる)殺し屋組織(最初はなんか麻薬密売人か? 程度のちょろそうな印象なのが、だんだん話がでかくなって日中戦争から太平洋戦争に突き進んだ裏にはこの組織が関係していることになっている)に見込まれた女子高生を巡るバトル合戦。
著者の工夫どころは、すべての殺し屋が特権的肉体であったり肉体改造であったり技術であったり、それぞれ独自の手法で特定の昆虫のバトルパターンを身につけているところにある。たとえば主人公は蜘蛛だし、一の子分(かなぁ)になるのはゴキブリだし、敵になったり味方したりいろいろややこしいのはカマドウマだし、その他たくさん。どの昆虫(ただし、蜘蛛、ゲジゲジ、サソリといった別系統もいないわけではないから、昆虫というよりは、広く虫ということになる)が一番強いかを、ファーブルの観察などを織り交ぜながら殺し合いをしまくる。(掲載誌は少年マンガらしいし、主人公は女子高生だからお色気もないわけではないというか、最後のあたりの強敵はむしろそれが武器だったりする。この程度の絵柄――劇画調ではなく、あまりにオタッキーでもない、手塚漫画みたいな丸っこい絵柄――だとお色気シーンに嫌味がなくて好き)
良いバトルマンガ(格闘マンガといっても良いのだが、これは格闘技ではなく殺し合い)の条件は、いかにもっともらしく技の効果や特徴を説明し、やられ側とやる側の心理状態によってどう技が効果をもったかを上手く説明することがキモだと思う。
ホーリーランドやグラップラー刃牙が優れているのは単に肉体表現がうまいだけではなく、説明文の上手さ(説明のうまさ、書き方の自然さ、挿入頻度の適切さ、などなど多面的な才能が要求される)も最重要な理由だ。
マンガでの元祖は白土三平(陽炎の術やら炭塵の術やらの説明)と梶原一騎(空手バカ一代は当然として巨人の星のもっともらしい大リーグボールの説明や養成ギブスの説明)に求められるのだろうが、日本での創作界隈での先鞭は山田風太郎だろう。
で、アラクニドの場合、何しろ虫の生態はそれだけで興味深いのに、それをいかに技として説明するか、相手との食い合わせの良し悪しを含めて、現実の昆虫の生態と荒唐無稽な技の説明を見事に融合させている。とんでもないおもしろさだ。
最後はなんか筆者自身が収拾がつかなくなって中途半端に終わらせてしまったかのようなことを後書きに書いているが、そうは思わない。余情もあれば期待(続編あるだろうし、あれば読みたいと思わせる)も持たせるなかなかうまい終わらせ方だと思った。というわけで、誰ともなくお勧め。
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