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何をトリガーにして買ったのか記憶にないが、なんとなく読み始めた。
ら、相当おもしろい。
最初の『白熊』という作品は確認のために出てくる幽霊譚で、まあオーソドックスな作風の人だなと考える。
が、次に『ジェニファーの夢』があまりにも奇妙でびっくりする。
子供が妙な夢を見るので、どんどん不安になっていく妻を見かねて夫が、引っ越した隣人の住む田舎への小旅行を提案する。
すると子供が夢として語った風景があらわれる。さらに隣人の妻と子供、夫の動きが実に微妙で妻は混乱する。が、夫婦とも何か感じるところがあり、宿泊の予定を切り上げて帰宅する。子供はもう不思議な夢を見ない。
という物語なのだが、語られるディティールがあまりにも奇妙なのだ。切り通し、牛が浮かぶ池、太鼓橋という組み合わせも実に妙だ(エロティックな意味を隠しているのか? と思わなくもないが、そうとも考えにくい)。が、後になって黒い馬と赤い車も出てくる。
三作目になると山の奇妙な泥人形との疑似恋愛譚、自分を失くしていく船、と奇妙な物語が続き、『長距離電話』という電話での会話だけでどんでん返しがある物語(仕組みと構成の妙は、久生十蘭の『姦』を思わせる)はうまく、遺作らしい表題作のその昔、N市では、はおもしろくはないが奇想で、恐るべき『見知らぬ土地』がくる。
タバコに火を点けようとしたウェーベルンが米兵に射殺されたエピソードを彷彿させる、真の恐怖小説だった。
そして『いいですよ、わたしの天使』という苦痛に満ちた作品がくる。
すぐに安倍公房の『友達』というか『闖入者』と同工異曲だなと気づいたが、全然違う。
友達や闖入者は明らかな他人なのだが、こちらは他人として書かれた家族の物語なのだ(あるいは他人であっても家族であっても同じことで、「闖入」や「友達」ではない。文字通り「天使」(自分の赤ん坊をそう呼ぶ文脈での)であり、天国からの遣いである)。
これは怖いのだが、妙な納得感もあり、抜群だ。
最後は『人間という謎』という作者自身による自作の解題のような抽象的な作品。これだけは大しておもしろくなかった。が、最後にはふさわしいのだろう。
というわけで、見知らぬ作家の見知らぬ作品集ではあったが楽しい読書の時を過ごせた。
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