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子供に誘われてTOHO日比谷にウィッシュを観に行った。
ちょっと最後のほうでは驚くほど(というのは、ディズニー映画では記憶する限り皆無だからだが)心が揺さぶられて驚いた。
歌はとても良い。(字幕版を見た) ここぞとなると歌いまくる量と質からはミュージカル映画に近い(たとえばエルサがレリゴー歌いながら山を登ってもミュージカル映画という印象にはならないが、こちらはミュージカル映画に近いなぁという感想となった。当然、ミュージカル映画は映画だから好きだ)。悪役の歌は楽しいし、動物大合唱も楽しい。
特にウサギがたくさん出てくるところは素晴らしい。まさに映画(もう1か所あるが、いわゆるネタバレになるので書けない)。
最後の権力移動は、え? そうなるの感があっておもしろかった。まあそうなるか。
併映の100周年記念短編はディズニーキャラクター達に思い入れがないから(チップとデールとティモシーと鴉軍団は好きだが)まあそんなものかなぁとは思った。
午後は妻とユーロスペースにほかげ。
元々も枯れ葉を観ようとしたのだが、出遅れて席が無い。でオンライン予約を観ていると「ほかげ」というのに目が留まる。アキカウリスマキ回顧展が併映されているというのは知っていたから、もしかして日本未公開か何かでおれが観たことない作品かな?と思って予約したのだった。
ら、全然アキカウリスマキ関係ない塚本映画だった。題がほかげだから、枯れ葉だの街のあかりだの、真夜中の虹だのの一種と完全に誤解してしまったのだった。
塚本映画っておそらく鉄男しか観たことないので、まあ、それもありだなと観た。楽しい映画ではなかったがなかなかおもしろかった。
3部構成。
1部はほぼ室内劇で、呑み屋兼食堂の女の家(なぜか焼け残っている)が舞台。劇としては夜になって子供と元教師の帰還兵が家に帰るところからがすべてで、疑似家族生活が描かれる。が、帰還兵が暴れ出して最初に脱落、子供が何をやって稼ぐかでひと悶着あって、脱落する。襖の向こうに何があるか? であるとか、子供は昼間何をやっているのか、であるとがスリルとして提供される。途中、子供が昼の家に飯屋の客として連れてくるおかしな老人が印象的(このシーンだけは明らかな昼)。
2部は近郊の田舎を舞台に、謎の男(素手で魚を採る)と子供の旅となる。1部がほぼ夜なのに反して、こちらはほぼ昼で明るい。座敷牢(というか土蔵というか、藤子F不二雄ののすたる爺みたいだ)に閉じ込められた帰還兵と謎の男の対話(は直接は聞こえず、後から子供に説明する)。男の行動の真意が明らかとなる。こういうったゆきゆきて進軍は、どのくらいの普遍性があるのだろうか? おれの爺さんは戦後は部下の会社に役員として迎えられて働いていたから、必ずしも悪い関係ばかりということもないのだろうが、それはどこから帰還したか(どこで戦ったのか)に大きく影響されそうだ。
2部と3部の幕間に元の家への子供の帰還がある。女は自分が病に侵されていて近寄らないように告げる。期間が短すぎるので鼻が落ちているわけではないだろうが、それっぽい。女は子供に拳銃を捨てることと、昼間のまともな仕事をすることを誓わせる。軍隊を持たず勤労に励むというのは、まさに戦後日本そのものだ。
3部は闇市で子供が女に言われた通り、とにかくまともに労働するために奮闘する。というか、いつもこの子供が確かな人間観察眼を持っているのがおもしろい。案の定、目をつけられたうどん屋の親父は子供に仕事と飯と少しのようだが給金をくれる。
夜、子供は駅の地下道(上野あたりを想定しているのだろう)に寝ぐらを求めて立ち寄る。傷痍軍人。廃人となった元教師の帰還兵を見つけて預かった教科書を置いていく。
翌日、鰻屋(かなぁ)で精がつくのかと聞きながら買おうとするが金が足りない。向かいの洋服屋(古着屋)でこの服は良いものか? としつこく聞く。2通りの解釈ができる。いずれにしても栄養がありそうな食い物=病気の人へあげる、とか婦人ものの服という点から、元の家の女へ、まっとうな労働で得た金で買って贈ろうという考えなのだが、1. 女が喜び、再び疑似家族として暮らす。2. (時系列からは無理があるが)古着は女のもの(=死んだ)。
最近になってバビロンベルリンを観たが、第一次世界大戦のPTSDに苦しんでモルヒネを打ち続けている主人公が出てくる。日本も太平洋戦争からの帰還兵にPTSDで苦しんだのが大量に存在したのではないか? と考えるわけだが、あまりそういう話は見ない。この作品は、第2部に出てくる上官を除けば(その上官も実際のところはわからないわけだが)、帰還兵は全員苦しんでいるか廃人になているか座敷牢にいる。それはそうだろうと思う。というようなことを妻に言うと、横溝正史の戦後の作品には、そういう人が(頭がおかしくなったという雑な形容ではあるが、というのはPTSDという概念が無いからだが)出てくるじゃん、と言われて、なるほどそうだと気づいた。
観たかった方向の作品とはまったく異なったが、そう悪いものではなかった。
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