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指揮のヴァレンティン・ウリューピンはカーテンコールでびっくりするほど黒いぴったりとしたスーツ(背広ではなく上下揃いという意味でのスーツ)を着た手足が異様に長い、スパイダーマンみたいな人で、良いテンポで進む。
とはいえ、1幕1場の人物紹介パートは比較的退屈なのでぼーっと観ていてタチアーナの手紙の場面(2場)になったら、あまりの衝撃に完全に覚醒した。
とにかく、シウリナのタチアーナが抜群なのだ。特に(もちろん聞かせどころなのだから「特に」なのは当然)あの人は何者? の音の美しさ(きれいに伸びてしかも複数の音が微妙に絡み合い共鳴しあう、最高のソプラノの音だ)は文字通り目が覚める思いだ。東京交響楽団とウリューピンの音も素晴らしい。
というわけで、2/3の千秋楽のチケットを終わった後にあわてて買いにボックスオフィスに走ることになった。
レンスキーのアンティペンコも実に良いレンスキーなのだが(第2幕2場のモノローグは実に良かった)、髭と見た目で、オネーギンよりも5歳くらい年下の17歳の純情少年には見えないのはしょうがない。
成田眞の隊長が妙に好演で印象的。とにかく声が通るので、本当にざわざわしたパーティー会場にふさわしい。
グレーミン公爵の歌は長過ぎる(繰り返しだし、内容は老人の説教調の惚気語り)が、歌手(ツィムバリュクという人)が良いので楽しめた。
オネーギンはまさにこの人はオネーギンを演じるにふさわしいと感心する立ち居振る舞いのユルチュクという人。が、逆に真に迫ったオネーギンなので歌えば歌うほど妙な空疎感があって逆におもしろい。プーシキンもチャイコフスキーもオネーギンをまさにオネーギンとして表現しているのだな。で、それを才能ある演者が歌うとどうにも空疎になってしまうようだ。
舞台に必ず出てくるイオニア式の柱と上の三角形がどうにもスタニフラスキーの劇場よりもボリショイ劇場のように見えて(でもイオニア式ではない)、以前聞いた話と違うなぁと思ったが、今回調べたら、今はスタニスラフスキーの家博物館にある舞台を模したものだと知った。こけら落としとなった作品は『エブゲニー・オネーギン』なるほど確かにこれだ。
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