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スリービルボーヅを観に渋谷の街へ出かけた時に文鳥堂で売っているのを目にして買ったピエール・パトラン先生を読了。
といっても、元から知っているわけではなく、岩波文庫のいきなり復刊シリーズは気づけば買うようにしているからだ。
小一時間程度で読了。
カバー裏からして読ませる。
金はない、客は来ない、服はボロボロ。この苦境を乗り越えるのが「口車」という乗り物なのだ……
張儀、蘇秦の輩か? と思いながらも、確かにそれは最高の車ではないか、と買ったのだった。
最初に訳者の長い解題と翻訳の苦心談がある。これがめっぽうおもしろい。1960年代初頭の翻訳だが、このころまでは、翻訳家は、どれだけカタカナを使わずに日本語にするかに苦心惨憺していて、おれは、大好きなうえにそのての訳業についてはこよなく尊敬している(こういう苦労でみんなが知っている例だとストライダーの馳夫とかカテドラルの伽藍とかになるわけだ。日本文化の教養重要)。
で、読み始めると、ピエール・パトラン先生とはどうも弁護士っぽい。
15世紀フランスの弁護士か。というか、弁護士というのが、いかに社会的にみて怪しい職業かが良くわかる(ということはそれから200年たっているとはいえ、ロベスピエールやダントンがどういう社会的地位にあったのかとかいろいろ考える)いっぽう、15世紀には弁護士を立てるという形式のまともな裁判があるということに感心する。だてにおフランスと呼ばれているわけではない。
詐欺がばれてさらし者にされたことがある凶状持ちのピエール・パトラン先生、どうにかして服を仕立てようと、布屋(翻訳では羅紗屋)から布を巻き上げるための算段をする。
この方法はちょっとばかり落語に近い。
さらには、布屋の強欲っぷりに腹を立てた羊飼いの弁護を引き受けることになる。
という、実に豪快にどうでも良い戯曲なのだが、言葉遊びが実に楽しく、それを翻訳家がくそまじめに格闘していて(脚注として原本ではこれこれこうだから日本語のこれこれこうに翻訳してみたというような説明がたくさんある)さらに楽しい。
最高だと思ったのが、Saint Leu(ルー聖人)のところで、この5世紀の聖人の名前の発音ルーがloup(狼)に通じるということで、15世紀にはすっかり、羊飼いの守護聖人として認められていたという、フランスでの言葉遊び(とはいえ守護聖人にしているのだから半分まじめではあるわけだが)にしびれると同時に、訳業は
狼上人様
で、さらにしびれる。
(日本語だけではなく、フランス語もある程度わかるほうがさらに楽しめる)
楽しいひと時だった。
ジェズイットを見習え |
仏文出身で、何十年も前に買ってあったのに、『ピエール・パトラン先生』を読んでいませんでした。今日中に読みます。