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友人が、コロナ禍に関連して、クリスティの鏡は横にひび割れてのように死ね! のようなことをFBで書いていたので、はてなんじゃろう? と興味を持って買って読んだ。クリスティは実に中学生の時に読んだABC殺人事件以来だ(カーやクイーンは読んでいるので、どうも肌に合わなかったらしい)。
結論から言うと、とてつもなくおもしろかった。
鏡は横にひび割れては、ミスマープルものだと、買って登場人物一覧を見て初めて知ったわけだが、どうも最晩年の作品らしく、ミスマープルはほとんど寝たきり老人扱いされている(作中、2回外出するが、初回は手ひどく転倒して厄介なことになる。追記:派手に(家政婦の監視の隙を突いたり、止める手を振り払ったりの派手な外出は2回で、それ以外にも資料集めに近所の美容院に出かけたりするので2回ではなかった)出歩くのが)し、作中で100歳か? とか思われていたりもする。
で、読み始めると、昔は良かったが今は新興住宅地に妙な家が建ち並んで変梃な連中住んでいるとか文句をぶーぶー垂れるは、雇っている介護士(とは当時は呼ばれない)には「はいはいおばあちゃん、そろそろねんねの時間ですよーばぶばぶー」みたいな扱いを受けて怒りまくっているし(が、極めて礼儀正しい人なので、怒りは口には出さないが、ぽろぽろ皮肉は垂れるのだが、相手が無教養なので全然通じない)、もう一人の女中はさばさばな若い女でこちらには相当好意的なのだが、とはいえ、やはり若者は杜撰だなぁとかいう思いを隠しもしない。とにかく不満や文句が多く、それを辛辣に表現するのだが、通用しないという、生き地獄となっている。
そういえば、妻が、イギリスの女流作家の作品は底意地が悪いと言っていたけど、確かにそう言えるかもなぁと思い出す。
さて、ハリウッド女優と結婚したての映画作家兼プロデューサー(だと思う)が、ミスマープルの近所の邸宅を買って引っ越してくる。その邸宅のお披露目パーティーで、ミスマープルが散歩中の遭難を助けた女性が毒を盛られて殺されるところから、連続殺人の幕があく。
ミスマープルの知性を理解しているのは、村に2人いるらしき医者の1人と、邸宅の元の持ち主、そしてスコットランドヤードから派遣されてきた警部補(過去にミスマープルの知性に助けられたっぽい)だけで、家の中では邪魔以外に役立つことをまったくしない介護士が介入しまくる状態での孤立無援の戦いが始まる。
推理小説としては、半分くらい読んだところで大方犯人の想像はついてしまうのだが、とはいえ、本書の真価は犯人の動機にあるので、実は犯人を知ってしまっても、まったく問題ないのだった。なるほどなぁ。
したがって、本書は推理小説としてはどうでも良くて、ある一時代の風俗(過去の文化とアプレゲール文化の衝突、共存、さらにアメリカという異国文化、映画文化との邂逅、家族関係についての考察などなど)の切り取りと、人間の愚かしさを、ビクトリア朝を引きずった聡明な老婦人(まあ、作家の分身と考えるべきだろう。そういえば日本でも戦前生まれの素晴らしく聡明なお婆さんというのはちょこちょこいる)の視点を通して描いた心理小説なのだった。すさまじくおもしろい。
警部補に、昔の時代に生まれていたらあなたのような素晴らしい女性と出会えたのかなぁ残念だなぁと言われて、「あの頃の女性で大学に通えたのはほとんどいないし、大多数はは学も知性も教養もないし、あなたのような知性の持ち主にはつまらないわよ!」と鼻で笑われるシーンがあるが、意地悪も何も、作者の自負心が見られるように思う。
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