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日々の破片

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2022-11-26

_ メトライブビューイングのメデア

東劇でメトライブビューイングのメデア。

オペラ自体が初見。ケルビーニという古典派とロマン派の端境期の作家の作品らしい。

確かに弦の合奏でモーツァルト風なところと管を混ぜた表現的な要素がある。が、オーケストレーションよりも、歌唱がロマン派に近い(というよりも、ほとんど後期ロマン派に進んでいる)。

内容は、アルゴ号の旅を終えて金の羊毛とともにコリントへ帰還したイヤーソン(作品内ではジャゾーネ)が王女グラウケと結婚しようと画策したことに憤激したメデア(アフロディテの陰謀によりイヤーソンに一目惚れした弱みにつけこまれて国宝の金の羊毛をイヤーソンへ与え、さらには国を捨て実の弟を惨殺するほどイヤーソンに尽くしまくるのだが、この時点ではやり口のひどさによって(しかし他に手段がないだけにイヤーソンの卑劣っぷりには観ていて腹が立つ)完全に憎まれている)が、猛毒の衣装でグラウケと王を暗殺し、さらにジャゾーネとの間に生まれた二人の息子と無理心中するという悲劇(作者のエウリペデスは前後をぶった切っているので経緯がわかりにくいが、当時のギリシャ人には全然問題なかったことは疑いようがない)。

知らなかったが、ノルマ同様にカラスがこの作品は私にしかできないじゃんと見つけてきたらしい。

それをさらにメトに私しかできないからやりたいとソンドラ・ラドヴァノフスキーがゲルブに持ち掛けたらしい。持ち掛けただけあってとんでもない表現だった。

が、1幕(背景説明でイヤーソンはコリント王に取り入りグラウケも英雄との結婚に胸躍らせているところに、怒り狂ったメデアが出てくるが、大衆はメデアをリンチにかけようと王宮を取り囲むというだけで、別にメデアの歌手って大変か? と思わざるを得ない。むしろイヤーソンのポレンザーニが暗くて実はイケメンのポレンザーニ(愛の妙薬でのぽよぽよ小太りで愛想の良いポレンザーニという別歌手が同一人物に存在する稀有の歌手で、ここでも自分勝手な英雄を好演している。声も抜群)の好演が目立つ。

2幕はほとんどグラウケの独唱。メデア役よりも、よっぽどグラウケ(作品ではグラウチェ)役のほうが大変なんじゃないか? と思う。グラウチェのジャナイ・ブルーガーも良い歌手だ。

この幕は比較的クラシック色が強くて、モーツァルトっぽいなぁと感じるところも多々ある。一方でメデアを含めた重唱でそれぞれが自分勝手な思いを歌いまくるところは、ヴェルディの先取りっぽくもある。

幕間インタビュー(インタビュアーはディドナート)でポレンザーニが得意(前回もあった)の「ネタバレになるから言わないけど」を言い出してちょっとおもしろい。もちろん、オペラは1回の体験ではなく、しかも誰もが知っているギリシャ神話なので、多少変えているとはいえ(元の神話ではメデアは無理心中――自分も死ぬ――はしないでその後も彷徨う)ネタバレもへったくれもあるわけないのをわかって言っているのだろう。

指揮のカルロリッツィはいろいろ言いたいことがありそうだったがマエストロコールのせいでインタビューを中断して去る。こういうタイミングは初めて見た。

で、三幕でびっくり。ほとんど最初から最後までメデアがあらゆる感情を次々と変えながら歌いっぱなしだ。これは恐るべきオペラじゃないか。なるほどカラスが持ってくるはずだし、ラドヴァノフスキーが挑戦したがったはずだし、通常の演目からは外れるわけだ。歌唱力表現力以前に体力が必要だ。

あまりにコンディションの調整が大変なのか、幕間インタビューにラドヴァノフスキーがほとんど出てこなくてビデオで紹介しているわけだ。体力作りのトレーニング風景などをやった。それにしてもカラスが40代で舞台から引退した(させられた説もあるが)のに対して、50代(と言っていたような)で堂々たるメデアっぷりを示せるのだから現代の健康術が凄いのか、ラドヴァノフスキーが凄いのか(それは当然そうなのだが)、いろいろ考えてしまう。

実に「恐るべき悲劇」を絵にかいたような作品だった。それにしても三幕は凄まじかった。

マクヴィカーの演出は、血生臭いマクヴィカー(他にもポップなマクヴィカーやエロいマクヴィカーが存在する)爆発でこれも良かった。

カラスが歌手引退後にパゾリーニに誘われて映画で王女メディアに出たのは、パゾリーニが「カラスを引っ張り出せば売れるだろう。引っ張り出すには『メデア』をやりませんか? でOKだろう」と考えたんじゃないかとか思った。

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(未見。正確には金曜ロードショーか日曜ロードショーで、5分くらい見た記憶はある。崖の上にカラフルな衣装か仮面かメークの人がいたような)

終わった後、銀座の三越まで歩いて弁松の赤飯弁当を買って帰る。弁松の弁当は色味が最低(ほとんど灰茶色)だし味もしょっぱい(栗きんとんの甘さが引き立つ)が、これこそお江戸の弁当という感じで好きだ。


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