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東劇でメトライブビューイングの椿姫。
これまで観た中で最も良い椿姫だった。
まず何より演出が素晴らしい。序曲の最初は最終幕に繋がるのだが、それを生かして最終幕の黙劇が幕の向こうで始まる。最初上手に女性がいるので、若いヴィオレッタかと思ったらそれは間違いだった。
1幕後の幕間インタビューで演出意図が話される。1幕を春、2幕1場を夏、2場を秋、3幕を冬と見立ててヴィオレッタを描く。
まるで司馬遼太郎が坂本竜馬だか吉田松陰だかに語らせた(誰が語ったか忘れたしどうでも良いがなぜか内容は覚えている)、「人間の一生は短かろうが、長かろうが、春に始まり冬に終わる」を想起せうる。
1幕が開くと完全なコスプレ演出なのだが、そういう意図がわかる(まだこの時点では意図は見えていない)。全員がそれぞれ色とりどりの衣装なのだ。これが秋に当たる2幕2場のパーティでは全員がくすみ始めている。
歌手も素晴らしい。特にすごいのがジェルモンのルカサルシで、声量と威風堂々たる体格で頑固だが涙もろいこれぞ田舎親父というとんでもない説得力がある。黙役で妹を連れてきている(実際に連れてきているかどうかはどうでも良い)。で、冒頭上手の女性は妹だったのかとわかった。
アルフレードのスティーヴン・コステロは細目(なんかドクタースランプのマシリトを彷彿させる)で表情が硬いのだが、声はきれいで動きが良い。
全体、演劇としてのオペラっぷりがすごい。(独唱、重唱、合唱曲としてのオペラとして良いのは当然として、演劇としてのオペラという点が見事だから、これまで観たどの椿姫よりも良いものを観た感が強いようだ)
3幕の最初、長い花嫁のベールを引きずり妹が下手から上手へ去る。無事結婚式を挙げたのでジェロモン一家がいよいよヴィオレッタのところに迎えに来るのだろう。が、もちろん時は既に遅い。
指揮のカッレガーリというカリガリ博士みたいな名前の指揮者はにこにこしながら、緩急自在でこれも良かった。
で、ヴィオレッタのネイディーン・シエラはときどき絶叫調で嫌な感じもするが、演技がちゃんとしているし歌に表情があるのでこれも良くて(なのでセンプレリベラよりも3幕のトラヴィアータの歌のほうが良い)、とにかく大満足した。
・幕間でメト歴代椿姫というのを紹介していてこれもおもしろかった。カラスは2回だけ、で始まり、過去にさかのぼるとブロードウェイで歌っていたのを連れてきたかわいい顔と声の人、次のイタリアから連れてきた抜群の歌唱力の美しい人……ときて、テバルディの歌が一番長めで、もちろん本当に絶品なのだが、それまでと違って顔の美醜には一切触れない。
だが、テバルディは本当に良い歌手だ。
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