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日々の破片

著作一覧

2023-04-22

_ エンジェルス・イン・アメリカ

新国立劇場でトニー・クシュナーのエンジェルス・イン・アメリカ。

とんでもなく濃密だった。

クシュナーは知らん作家だと思ったが、スピルバーグと組んで脚本を書いたりしている人で、ウェストサイドストーリーを観ていた。

その人が1990年代初頭に書いた作品で、2部構成。第一部は1985年、第二部はその続きだが、最後は1991年に終わる。レーガンに始まり、ゴルバチョフで終わる。

登場人物は、プライヤー(priorのカタカナ読みを始めて知った。ずっとプリオールとフランス語風に読んでいた)とルイ(ルイス、ルイーズ)のゲイカップル、ハーパーとジョーの夫婦、ジョーの母親、ジョーの(直接なのかな?)上司のロイ(実在の人物とは知らなかった)、研修医(なのか介護士なのか)のベリーズ、天使(と看護婦)。ただし必要に応じて、6人の天使になったり、ラビになったりする。

事前の知識は休憩時間を含めて8時間以上の演劇で2部構成ということぐらいに留めて臨んだわけだが、まったく問題なかった。必要な情報はほぼすべて語られている。ただし、共和党支持者がルーズベルトを称えるのでなぜ?と思ったら、共和党でネイティブアメリカン絶滅政策支持者のセオドアと、民主党で日本人差別主義者のフランクリンの2人がいて、劇中で称えられているのはセオドアのほうだというのはわからなかった(さっき調べた)。

冒頭、天使が飛ぶシーンの後、養老院で死んだ婆さんのためにラビが呼ばれて祈祷を行うシーンから始まる。この人のことは知らんと言いながら、子供たちの名前を読みあげる。次に孫たちの名前を読み上げはじめるのだがマックスというような名前で引っ掛かる。ユダヤの名前ではないが……。

プライヤーとルイスの会話。ルイスまで発音するとばれるのでルイと呼ぶというようなことを話している。のちにルイスは自分のことをルイーズと紹介したりする。

ロイのオフィス。ロイは次々とかかる電話に応対する。その中で金を返す話がはさまる。ジョーは終わるのを待つ。が終わらない。ジョーはモルモン教徒だということを話す。ロイは司法省に手を回すからワシントンに行くようにジョーに伝えるが、ジョーは妻と相談する必要があると答える。

ジョーは家に帰り妻(明らかにおかしい言動)と会話する。

プライヤーは肉腫ができていることをルイに言う。ついにプライヤーは倒れてしまい救急車で病院へ連れていかれる。意識を失っているプライヤーの看護士に対してルイは散歩に行かなければならないと伝えてくれと言って立ち去る。

ジョーとルイが職場の近くの公園か食堂で出会う。

ロイは発症して入院となる。ベリーズが担当となる。保守的で権力を持つ老人と、ゲイの移民の看護士という立場が違い過ぎる二人組が反発しながらもうまくやっていくというフランス映画があったなと思い出す(未見だ)。ベリーズは冷蔵庫の中のAZTの山を見て驚く。本当に権力者なのだと知る(ロイはコントラに関するスキャンダルを暴露することをほのめかしてAZTを手配している)。お互いの罵り合いでベリーズがユダヤのクソ野郎と罵るとロイはおもしろいと言ってAZTを1つ分ける。ベリーズは冷蔵庫から2つ取り出す。

というように、短い会話による短景をつなぎ合わせて物語が紡がれる。

各短景が始まる直前に補助的な音楽が序曲として入る。

これがリズミカルで長丁場を感じさせない(もっとも約1時間ごとに15分の休憩が入るので、その意味では長丁場とは言いにくい。ラインの黄金のほうが倍の長さの神々の黄昏よりもしんどいことの逆だ)。

ハーバーとプライヤーは夢の中でお互いに出会うし、ハーバーは夢の中で出会う旅行案内人に南極へ連れていかれるのだが、それと軌を一として家からいなくなる。

完全リアリズムというわけではない。が、必ずしも妄想だけで完結しているわけでもない。

ジョーの母親もプライヤーを預言者として扱うために降臨する天使を見る。プライヤーへヤコブのように戦うことを告げる。天使からヨナと呼ばれていたにも関わらずプライヤーはヤコブの梯子を上る。天使との戦いがあまりにも不利であることは、ジョーがすでに指摘している。ジョーの母親は敬虔なモルモン教徒なので、天使がお告げをするために舞い降りてくることは現実にあり得ると考えている。

ロイの病室には常にエセルローゼンバーグの幽霊がいて嫌味を言いまくる。ロイが死ぬ。ベリーズに呼ばれてルイが来ている。ベリーズはユダヤ教の祈祷(カディッシュ?)をするように言う。誰がこんな共和党のクソ野郎のためにとルイは反発する。それはそれとして許すというのが重要だとベリーズに諭されてしぶしぶ祈り始めるがちゃんと覚えているわけではないので詰まる。するとエセルが助ける。祈りが終わった後、ルイとベリーズは冷蔵庫からAZTを運び出してプライヤーへ与えようとする。

朝、当然のように夢だと考えるが、看護士を見て驚く(看護士と天使は一人二役)。

最後、和解したルイとプライヤー、なぜかジョーの母親、ベリーズの4人がセントラルパークの天使を眺めながら政治談議をする。ルイはゴルバチョフのペレストロイカを称える。が、ジョーの母親がユーゴスラビアはどうなのかと指摘する(まだセルビアの民族浄化戦争の前だ)。プライヤーは彼らの会話を離れて、観客に語り掛ける。


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