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日々の破片

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2023-09-23

_ ラグタイム

日生劇場でラグタイム。音楽はアナスタシアの人らしく、今は渋谷と日比谷で新旧二作が劇場にかかるという人気者だ。

舞台は20世紀初頭(おそらく日本の大正年間というのは、伊藤野枝が私淑しているエマ・ゴールドマンが登場するからだ)で、アナルコサンジカリスムの労働運動が激化している状況(というのは一面)。

婦人解放の悲劇(エマ ゴールドマン)

物語は3つの家族の関わりあいで、ラグタイムの時代のアメリカの夢と幻滅、自由を求める個人とそれを抑圧しようとする国家とその手先のお調子者のダイナミズムを描く、ということになるだろう。

家族の1つは無名の富裕層で、夫は冒険家(北極探検に行こうとしたりする)、妻は主婦、そして息子がいる。その妻が庭先で黒人の赤ん坊を拾うことで、別の家族とのかかわりができる。

そちらの家族はラグタイムの(自然発生的な時代音楽とした場合の)創始者のピアニスト、その逃げた恋人(と、拾われた赤ん坊)。

妻は、赤ん坊を拾ったことで、成り行き上逃げた恋人と赤ん坊の面倒を家でみることになる。夫は北極探検に出ていて不在で、もし家にいたら黒人の家族には門を閉ざすだろうと歌う。

ピアニストは悶々とした末に、別れた恋人によりを戻してもらおうと、T型フォードに乗って(そのくらいの稼ぎは今やあるのだ)ニューヨークからボストンへ旅立つ。

途中、町の消防団に道を通してもらえない差別にあったりするが、最終的に無名家族の元にたどり着く。

が、恋人は面会を拒否する。

それでもめげずに週一回は家族の元を訪れる。妻に請われてピアノを弾くのが日課(週に1回だが)となる。(祖父からクールを弾いてくれと頼まれて、それはミンストレスショー用のでっちあげ音楽だ。おれのはラグタイムだと胸を張る件がある)

そのうち恋人も思うところあり、3人(赤ん坊は妻がピアニストへ見せたりするので知っている)で家庭を持つことを決める。

ピアニストは公民権(まではまだ時代は進んでいない。ブッカー・T・ワシントンの時代だ)に目覚めたため、最初に通せんぼされた消防団のところに行き権利を主張する。が、車を破壊され、警察からは無視され、苦情も受け付けてもらえない。

恋人は共和党の大統領候補に請願に行くが、拳銃が見えた(もちろん持っていないので見えるはずはない)という理由で警備員に殴殺される。

かくして、ピアニストはテロルに走り、一連の消防署員殺害と放火により、消防署長の差別が明らかになり、市民的な圧力が消防署にかかることになる。

というように、最後にものを言うのは暴力である。

一方、それとは別の家族の物語が並行する。

ラトヴィアのユダヤ人が、妻が死んだうえに、飯が食えない状態となったので、娘を連れてアメリカへ移民してくる。

最初は切り絵の大道芸をしているのだが、食えないために、ボストンに流れて劣悪な環境での工場労働者となる。この過程で無名家族の妻や息子と知り合う。また、ニューヨークではエマゴールドマンやフーディニー(全然関係ないのになぜフーディニーが出てくるかといえば、脱出芸の「脱出」というのが物語的なテーマだからその象徴としての役割があるのだろう)と知り合う。エマゴールドマンはボストンでの労働争議で再会することになる。

結局、ユダヤ人は食えずにフィラデルフィアへ流れていくのだが、子供を喜ばせるために作った切り絵を使った動く絵本が売れるようになる。

最後、ユダヤ人は、映画監督としてアシュケナージ男爵を名乗るようになる。もう十二分に裕福だ。

一方、ピアニストは裁判によって差別の実体などを明らかにするという約束の元、投降したところを射殺される。国家は常に裏切る。

という物語をラグタイムのリズムをユダヤ音楽(よく知らないけど)風に哀調を帯びさせたり、ちょっと気取らせたりしながら、繋げていく。

役者はみなすばらしいが、ユダヤ人の父と娘がなんか良い。主役ということになるのだろうが、ピアニストは抜群、無名の妻(母親と呼ばれる)も良かった。最後、赤ん坊が成長して幼児になってからの駆け回るところが印象的。

その意味では、男爵を名乗るようになったユダヤ人と妻が海辺で出会い、二人の子供同志で仲良く駆け回って遊ぶところも素晴らしく良かった。

・2幕の途中で舞台装置がうまく動かないために検査が入って中断したが、そういうこともあるのだな。

・始まって最初の10分くらいは、まったく物語に入れなくて退屈していた。ユダヤ人が出てきたあたりからおもしろくなってきたのだった(と同時に黒人の赤ん坊を拾うところ)。


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